森薫『乙嫁語り』第9巻 乙嫁というより乙女なパリヤさん
『乙嫁語り』は19世紀後半の中央アジアを舞台に、「第一の乙嫁」アミルとその夫カルルクを中心として、同時代を生きる人々の婚姻模様を描く漫画です。今巻は「第五の乙嫁」(つまり五人目のお嫁さん)パリヤのお話。
パリヤは遠方から嫁いできたアミルと最初に打ち解けた心根の優しい娘ながら、家事を始めとする雑事を苦手としていて、年頃にも関わらず結婚相手が見つからないという境遇でした。当時は15歳前後が結婚適齢期とされており(若ければそれだけ後継ぎが産めるため)、パリヤ(というより彼女の両親)は行き遅れが心配で心中穏やかではありません。
そんなパリヤの縁談がとうとう進みます。結婚は基本的に親の意向で相手が決められるため、結婚する当人の感情は無視されるのが通例。ところがこの縁談はお相手となるウマルの希望が強かった。婚前では年頃の男女が二人でいることすら御法度とされる世界、そこには現代とは違った彼ら独自の価値観、貞操観があります。読んでいるこちらがやきもきするほどの些細な行為、微妙な交流で二人は惹かれ合い、その心の距離が徐々に縮まっていく。ウマルへの恋しさ募るパリヤの姿はまさに乙女そのもの。素直になれないパリヤが内面を隠しきれずに顔を綻ばせる時、あなたも釣られてニヤニヤ笑ってしまっていることでしょう。